「あ、あ、明日から来てくれ」
さっきまでソファーでふんぞり返っていたマネージャーたちが
ステージ前まで駆け寄り
いつのまにか目の前にいた。
「明日からですか。わかりました。
ヨロシクお願いします。」
オーディションに合格した嬉しさで
ホントは飛び上がりたい気持ちだが
ここは、自称「長崎で一番のバンド」らしく
クールに受け応えた。
ギャラは今考えたらとてつもなく安かったが
人前で演奏出来てギャラを頂くお仕事にありつけた喜びと
灰色の福岡時代からやっとのこさ
この場所へたどり着いた喜びが
この時、じわじわと溢れてきていた。
「ありがとうございます!では明日!」
ホントはメンバーとこの瞬間も喜びを分かち合いところだが
去り際もクールに演出した。
西日本最大のマンモスキャバレー「ニューモモタロー」。
深夜のローカルCMにもガンガン流れている「ニューモモタロー」。
弱冠20歳にして
明日からここでバンド・ミュージシャンとして出演する切符を
手に入れた喜びを
ひしひしと噛み締めながら
階段を降りる4人。
ニューモモタローの階段降りきった入口付近のすぐのとこで
ある男とバッタリ会った。
タンゲ
「おーーーーっ!」
ある男、その名もタンゲと、
今井は久しぶりの再会だったのか
二人ともハトが豆鉄砲食らったような顔をしている。
僕はタンゲとはその頃面識はなかったが
タンゲという男、長崎では少しばかり名が売れていた。
当時の長崎にはいくつかの暴走族があり
「異邦人」「A DAY」「デビル」「昭和連合」etc
その中でも暴走族リーダーの「ヤンケ」と「タンゲ」はよく聞く名前であった。
そのタンゲと今井は知り合いみたいで
なにやら話している。
聞けば
「サイドギターやらんや?」と
バンドにタンゲを勧誘しているところだった。
リーダー今井は、この横道坊主にサイドギターが必要と思ったのだろう。
この偶然の再会を「これも何かの縁」と思ったのか
今井はいわば強引にタンゲを勧誘していた。
タンゲにとっても
たまたま思案橋を歩いていたら
偶然、今井のいる横道坊主に会って
いきなりサイドギターにさせられようとしている。
なんともヒキが強い男である(笑)
タンゲはそのことを快諾し、明日からメンバーとして出演する事になった。
こうやってサイドギターにタンゲを迎え
横道坊主は五人のバンドになった。
それからその夜は
みんなで喜びを分かち合い
今井と正樹と僕は
お祝いモードで
眼鏡橋の近くにあるライブスケッチへ呑みに繰り出した。
夜風が心地よい。
街中の至るところでチェッカーズの
「涙のリクエスト」が流れていた夜だった。
トリオからスタートした3人のメンバーは
この縁と
これからのワクワクする希望に胸踊り
何度も乾杯を繰り交わした。
また、何ヶ月か前に
僕が田中荘で正樹に
「ロックンロールとヘビーメタルのどっちをとるとや!?」
・・・なんて
詰め寄られたことは
この頃には僕も正樹もとっくに忘れていた(笑)
♪最後のコインに祈りを込めて
Midnight DJ
ダイヤル回すあの娘に伝えて
まだ好きだよと
トランジスタのボリューム上げて
初めて二人 踊った夜さ
さよならなんて
冷たすぎるね ひどい仕打ちさ〜♪
to be continued・・